滞在三日目の夜遅くのことです。
勇と正子がキッチンで話していると、選手の一人、橋爪四郎が入ってきました。
「なんだかお腹が空いてしまったもんで」
「あらあら、そうですか。じゃあ、夜食でも食べましょう。茶粥なんてどうですか」
「わあ、おかいさん、ですか!?」
茶粥とは、白いご飯を茶でやわらかく煮込んだ和歌山の郷土料理で、
地元の人は「おかいさん」と言ってしばしば食べています。
橋爪は和歌山の出身でした。
勇も正子も子供の頃を和歌山で暮らしたので、その頃の習慣から、茶粥はアメリカでもよく食べていたのです。
「ええ、おかいさん」正子は夕食の残りのご飯を使って手早く茶粥を作り、食卓に運びました。
「うれしいなあ。まさかロスでおかいさんが食べられるとは思いませんでした」
「やっぱり和歌山の人間にはこれがないとなあ」
橋爪は、湯気を立てる熱々の茶粥を、せわしなくおいしそうにかき込みました。
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